松竹の監督系譜-蒲田(大船)調の行方 <その12>

◆花壇を荒らした者達への怒り

 本流2派の一派--小山内派の話が長くなったが、ではもう一つの芳亭派の方はどうだったかというと、こちらも本流を継承した監督を出したとは、とても言えない。
 芳亭派の流れにある小津安二郎や清水宏は何度もいうように、もともとは城戸と同じアンチ芳亭派だから、泣かせの新派悲劇調をそのまま引き継ぐわけがない。
 だがその小津、清水の門下からも蒲田調を継ぐべき、才能(監督)が出たかといえば、それも出ていない。

 こちら芳亭派の末端に控えている大島渚や篠田正浩は、木下派閥の吉田喜重とともに〝松竹ヌーベルバーグ〟を起こし、大船調の継承どころか、それを破壊するアンチ大船調(アンチ日本の政治・社会体制!)を標榜していくわけだから、松竹側にしてみれば飼い犬に手を噛まれたようなもの。大島渚や吉田喜重らは、本来は本流派に繋がるエリートながらその本流を食い破って外に飛び出した。彼らはまさに大船の鬼っ子であった。

 先の<その11>で、蒲田=大船調という麗しき花壇を蹴散らしたのは城戸四郎だと書いたが、城戸が蹴散らす前に、それを行ったのがヌーベルバーグの一党である。彼らは城戸が手塩に掛けて育てた蒲田=大船調という花壇を踏みつぶして荒らした。
 松竹ヌーベルバーグの到来を告げた大島渚の 『青春残酷物語』 (昭和35=1960年)が公開された時、城戸は経営不振の責任を問われ社長の座を退いていた (*1) 。『青春~』以降、吉田喜重、田村孟、森川英太郎、高橋治らによってヌーベルバーグ作品は一気に開花したが、それは城戸のいぬ間に行われたのである。

 大島達が花壇を荒した〝凌辱〟行為は、本来はその荒れた花壇(色褪せた道徳観と定石化したプロット、そして安っぽいハッピーエンド<ヒューマニズム>で塗り込めた、〝偽りの花園〟然とした蒲田=大船調)に新たな才能と作風の息吹を芽吹かせるための〝逆療法〟だったはずである。
 しかし彼らよりも3ゼネレーションも上の城戸四郎に、その切なる叫びは聞こえない。大島達の行動をただの破壊行為としか見ない。それを、大船調への、いや自分へのテロ(城戸四郎否定)としか感じとれなかったのである。

 城戸は同じ松竹の人間によって自分の花壇を荒らされた事でトラウマを得、その十数年後、今度は自らの手で花壇を荒らすのである。それはもしかすると、他人に汚されるくらいなら自分で潰してやる、といった自暴自棄的な確たる決意があったのかもしれない。

 その十数年後--つまり、城戸が野村芳太郎の監督料を上げるなと命じ、森崎東を辞めさせた、昭和50年代とはちょうどジャズ野郎が映画を見始めた頃なのだが、ロードショーで見ていた当時の松竹映画というものは存外に暗かった、貧乏くさかった、そして徹底的にダサかった。ま、実は松竹に限らず、この時期の日本映画はどれもこれも、中学生のジャズ野郎にはそんな感じに見えた。
 そんなジャズめが、それから30数年たって、これほどまでに日本映画に入れ込むようになる、とは夢にも思わなかった。これも皮肉な話です。〔続く〕

*1 城戸の退陣 日本映画のピークは、先日、国民栄誉賞を弟子の松井秀喜とともに受賞した長嶋茂雄が巨人軍に入団したのと同じ昭和33年(1958)年であるが、邦画界全体はピークだったが、その時、松竹はすでに下降期に入っていた。松竹が我が世の春を謳歌したのは、それに遡ること5年前、 『君の名』 が大ヒットした昭和28(1953)年で、これによって松竹本社は新築され、昭和31年(1956)に松竹セントラルという大劇場を併設した松竹会館が落成する。しかし、皮肉にもコレを契機に松竹映画の興行収入は下降線を示し始め、昭和33年には邦画6社中、第5位に甘んじる(最下位は、当時、落日間近だった新東宝)。
 そして昭和35年(1960)には株主配当が無配となる。『日本映画を創った男 城戸四郎伝』(小林久三、新人物往来社)にはこうある。

 しかも、たんなる無配転落ではなかった。前の年〔昭和34年〕の九月には九億二千四百万円を増資した直後の無配転落で、経営者にしてみれば恥の上塗りのようなものであった。
 その責任をとって、城戸社長は辞任して相談役となった。松竹に入社して間もなく平取締役となり、以後、一貫して右肩上がりの昇進をつづけて社長にまでのぼりつめた城戸にとって、はじめて味わう挫折だった。


 城戸の後、社長になったのは専務の大谷博で彼は大松竹(歌舞伎・演劇・映画その他、松竹の事業のすべて)の合理化を推進した。
 まだ社長であった昭和33年の在任中、城戸は 木下惠介 監督の企画 『楢山節考』 には反対で製作をストップさせていたが、松竹会長・大谷竹次郎の了承の元に許可されて製作・公開され、批評的にも興行的にも大成功を収める。映画化に反対だった城戸の面目丸つぶれであった。城戸時代(大船調)は、彼の社長在任末期にすでにその〝終わり〟が始まっていた、ともいえる。

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